「賃上げしなければ人が辞める。かといって、これ以上人件費を上げる余力もない」ーーそんな板挟みを感じている経営者の方は、決して少なくないはずです。東京商工リサーチの調査によれば、2026年7月の「人手不足」倒産は63件と過去最多を更新し、上半期(1〜6月)でも237件と前年同期比37.7%増という状況です。中でも人件費高騰が直接の原因となった倒産は前年の2.4倍に急増しており、「賃上げ疲れ」が資金繰りを直撃している実態がうかがえます。
もしどこかで「うちも他人事ではないかもしれない」と感じたなら、その感覚は決して大げさではありません。むしろ、今の時代にきちんと向き合っているからこそ出てくる危機感だと思います。本記事では、この状況にどう向き合うかという考え方と、実際に使える2つの補助金をご紹介します。
なぜ「規模を拡大すれば強くなる」が通用しにくくなったのか
これまで多くの中小企業にとって、成長の王道は「今の事業を大きくすること」でした。同じ商品・サービスをより多く売り、設備や人員を増やして効率化する。いわゆる「規模の経済」です。
しかし2026年のように、人手不足と人件費高騰が同時に進み、しかも先が読みにくい時代には、この考え方だけでは立ち行かなくなりつつあります。既存事業を拡大しようとすればするほど、必要な人員も比例して増え、確保できなければ倒産に直結してしまう。倒産件数の急増は、まさにこの構造の表れといえます。
「範囲の経済」という、もう一つの選択肢
そこで考えたいのが「範囲の経済」という視点です。これは、一つの事業を大きくするのではなく、今持っている強み(設備、技術、顧客との関係、スタッフのスキルなど)を活かして、事業の幅を広げていくという考え方です。
たとえば、既存の設備を使って新しい商品を作る、これまでの顧客基盤に新しいサービスを提案する、といった形です。新しい事業のために一からすべてを揃える必要はなく、今あるものを土台にできるため、規模をむやみに拡大するよりも人手不足の影響を受けにくいというメリットがあります。何より、収益の柱が一つでなくなることで、どこかの事業が苦しくなったときのリスク分散にもなります。
「今のままではじり貧かもしれないが、大きな投資をする余力もない」と感じている経営者の方にこそ、まず知っておいていただきたい考え方です。
選択肢1:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金「新事業進出枠」
範囲を広げる取り組みを資金面で後押しするのが、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の「新事業進出枠」です(制度全体についてはvol.15でも解説しています)。既存事業とは異なる新市場・新分野への進出を対象とした枠で、対象となるのは、新たに製造・提供する製品やサービスに新規性があり、その市場が自社にとって新しい市場である取り組みです。
補助上限額は従業員数によって次のように設定されています。
- 1〜20人:2,500万円(賃上げ特例適用で3,000万円)
- 21〜50人:4,000万円(同5,000万円)
- 51〜100人:5,500万円(同7,000万円)
- 101人以上:7,000万円(同9,000万円)
「最大9,000万円」という見出しだけを見ると規模の大きな話に感じますが、小規模事業者であっても2,500万円からの補助が受けられる制度です。第1回公募は2026年9月30日に申請受付が始まり、締切は10月30日18:00です。
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選択肢2:小規模事業者持続化補助金(第20回)
「新市場への進出というほど大きな話ではなく、まずは今の商売の幅を少しずつ広げたい」という場合には、小規模事業者持続化補助金のほうが身の丈に合っているかもしれません。新しい販路の開拓や、それに伴う小規模な設備投資などを支援する制度で、補助上限額は基本50万円ですが、インボイス特例で50万円上乗せ、賃金引上げ特例で150万円上乗せ、両方満たせば200万円まで上乗せされます。補助率は2/3以内(賃金引上げ特例のうち赤字事業者は3/4以内)です。
第20回の申請受付は2026年11月5日開始、締切は12月15日17:00の予定です。健康経営優良法人の認定をお持ちの企業には加点も設けられています(vol.14参照)。大きな挑戦は難しくても、今の事業の延長線上で新しい客層や販路を試したいという段階の方に向いた制度です。
まとめ
人手不足倒産が過去最多を更新する今、「今の事業をどう大きくするか」だけでなく、「今の強みをどう別の形で活かせるか」という視点を持つことが、変化の速い時代を乗り切る一つの道になります。新事業進出枠と持続化補助金は、その規模感に応じて選べる、身近な選択肢です。
健康経営ラボでは、こうした補助金の申請サポートを行っています。「うちの場合、どちらが合っているか分からない」という段階でも構いませんので、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q. 人手不足倒産のニュースを見て不安になりますが、まず何から考えればいいですか?
A. いきなり大きな新規事業を考える必要はありません。まずは今の設備・技術・顧客基盤の中で「他にも活かせる形はないか」を洗い出すことから始めるのがおすすめです。その延長線上で、新事業進出枠や持続化補助金のどちらが自社の規模感に合うかを検討していただけます。
Q. 新事業進出枠と持続化補助金、どちらを選べばいいか迷います。
A. 目安としては、既存事業とは異なる新市場・新分野へまとまった投資をして進出したい場合は新事業進出枠、今の事業の延長で新しい販路や顧客層を少しずつ開拓したい場合は持続化補助金が合いやすい傾向にあります。両方の要件に照らして自社の取り組みを整理してみることをおすすめします。
Q. 業務改善助成金(vol.16)とはどう違いますか?
A. 業務改善助成金は、賃上げとあわせて行う設備投資を支援する制度で、既存事業の生産性向上が主な目的です。一方、新事業進出枠や持続化補助金は、新しい事業や販路への挑戦を支援する制度という違いがあります。目的に応じて使い分け、あるいは組み合わせることも可能です。
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